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東京地方裁判所 平成8年(ワ)23690号 判決

原告

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

髙池勝彦

被告

株式会社コンピユーター・メンテナンス・サービス

右代表者代表取締役

有賀功

右訴訟代理人弁護士

西迪雄

向井千杉

富田美栄子

右訴訟復代理人弁護士

小川薫

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告が被告に対し、雇傭契約に基づく権利を有することを確認する。

二  被告は、原告に対し、金二二八万八三〇八円及び平成八年一二月二〇日から毎月二〇日限り金二八万二七一八円並びに平成八年一二月五日から毎年一二月五日、六月二六日限り金五九万二〇〇〇円を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、被告のした懲戒解雇の効力を争い、被告に対し、雇傭契約に基づきその地位の確認及び賃金並びに賞与の支払いを求める事案である。

一  当事者間に争いのない事実等

1  当事者等

被告は、コンピユータの管理及び保守等の請負を主たる業務とし、住友金属工業株式会社(以下「住友金属」という。)の子会社として設立された株式会社である。

原告は、平成元年一二月に被告に入社した後、株式会社タツミ商店(以下「タツミ商店」という。)に派遣され、専ら被告が訴外タツミ商店から請負ったコンピユータ管理業務に従事してきた。

2  本件懲戒解雇

被告は、平成八年五月二四日、原告に対し、即日懲戒解雇する旨口頭で通告し、解雇通告書、解雇予告手当及び離職票を交付しようとしたが、原告は受領を拒否した。そこで、被告は、右解雇予告手当を供託したが、離職票等は、同年八月三〇日、原告が受領した(以下「本件懲戒解雇」という。)。

3  就業規則(〈証拠略〉)

被告には次のような就業規則がある。

五九条(減給・出勤停止・降格)

次の各号の一に該当する者は、減給、出勤停止または降格に処する。

一〇号 会社の財産に損害を与え、または名誉・信用を傷つける等の行為のあった者

二号 社員として会社の対面を著しく汚した者

六〇条 (懲戒解雇)

次の各号の一に該当する者は、懲戒解雇に処する。

四号 素行不良により、会社施設内で風紀秩序を著しく乱した者

一七号 懲戒が数回に及んでも改悛の見込みがなく、または前条に該当してその情の重い者

一八号 その他前各号に準ずる行為のあった者

二  争点

1  本件懲戒解雇の相当性

(一) 被告の主張

原告は、被告の派遣社員としてタツミ商店をその就労場所と指定されて勤務を命じられていたのであるから、被告の企業秩序を維持すべきであるのはもとより、タツミ商店における職場秩序を維持するよう規律を遵守して就労すべきであるところ、同店の女性従業員に対し、職場内で強制わいせつ的行為を繰返したため、タツミ商店から派遣を拒否されるに至ったものである。

原告の右行為は、タツミ商店内において職場の風紀、秩序を著しく紊乱するとともに、原告を派遣した被告の信用を著しく傷つけたから、就業規則六〇条四号、一七号、一八号に該当し、本件解雇は合理的な理由があり有効である。

(二) 原告の主張

強制わいせつ的行為、タツミ商店から被告に対する原告の派遣拒否の事実はいずれも否認する。

被告は、十分な調査もせず、原告に弁明の機会も与えずに一方的に原告を懲戒解雇したもので、本件懲戒解雇は懲戒権の濫用に当たり無効である。

2  雇用契約の内容(給与及び賞与の額について)

(一) 原告の主張

原告の賃金については、原告と被告との間で基本給の一六・六か月分を最低年俸とする旨の合意があったところ、本件懲戒解雇当時の原告の給与月額は、基本給二五万七〇〇〇円であり、それに諸手当及び交通費一万九二八二円を含めた合計三〇万二〇〇〇円が総支給額であった。また賞与については、原告と被告との間で、毎年六月二六日及び一二月五日にそれぞれ基本給二・三か月分を支給する旨の合意があった。

(二) 被告の主張

本件懲戒解雇当時の原告の基本給、総支給額が諸手当及び交通費の合計であることは認め、その余は否認する。

原告の給与は、被告の社員給与規則に基づいて支給されており、最低年俸や賞与額について原告主張のような合意はなかった。

第三当裁判所の判断

一  本件解雇に至る経緯

(証拠・人証略)及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ(当事者間に争いのない事実を含む。)、右証拠中これに反する部分は信用できず採用しない。

1  被告は、住友金属の子会社として設立され、技術者を顧客に派遣してコンピユータの管理及び保守等を請負うことを主たる業務とする株式会社であり、現在の従業員数二〇名のうち一五名が技術者である。

原告は、被告が平成元年一二月一日、タツミ商店から、同店のコンピユータの管理を請負ったことに伴い被告に雇用され、被告とタツミ商店との間における請負基本契約書(〈証拠略〉)に基づいて、被告の派遣社員としてタツミ商店に常駐し、同店のコンピユータの管理、運用業務及びシステムの改善業務に従事していた。

2  平成八年四月中ごろ、タツミ商店制作部に勤務する乙山花子(以下「乙山」という。)からその上司である制作部長石山秀行(以下「石山部長」という。)に対して原告の行為について報告があった。これを受けて同月二二日、タツミ商店の代表者巽啓有(以下「巽社長」という。)は、被告代表者に対し電話で面会を申入れた。同日、被告代表者と被告の総務部長中島英明(以下「中島部長」という。)が、来訪した巽社長に対応したところ、巽社長は、原告が乙山に対しセクハラ行為をしていること、次第にそれがエスカレートして暴力的になっている旨の苦情を述べた。

3  そこで、同日、中島部長は、タツミ商店において就業中の原告に対し電話で翌日被告へ出社するよう伝え、同月二三日午前、出社してきた原告に対し、「昨日巽社長が来訪し、タツミ商店の女子社員が原告にセクハラ行為を受けていることを理由に原告の派遣拒否を申入れてきた。」旨告げるとともに、業務遂行の状況を整理するよう指示し、同日午後、被告代表者とともに、巽社長に謝罪し、併せて事情を聞きたい旨申入れた。また、被告代表者及び中島部長は、平成八年四月二四日、親会社である住友金属人事部担当者に対し、事態への対応を相談したところ、解雇もやむを得ないとの結論となったが、さらに中島部長は、同月二五日中央労働基準監督署に相談し、同月二六日、被告代表者とともにタツミ商店に赴いて石山部長から事情説明を受けた。その後、中島部長は、石山部長の事情説明の結果を「顛末書」(〈証拠略〉)と題する書面にして、石山部長にも見せて確認したところ、石山部長は右書面をさらに乙山に見せて内容を確認して訂正した上、返送した。右のような作業を二回繰り返し、中島部長は、平成八年五月二四日、石山部長から最終的な書面を受理した(〈証拠略〉)。

4  一方、原告は、平成八年四月二三日、中島部長からの話の後、タツミ商店に戻り、乙山が原告のいわゆるセクハラ行為を上司に訴えたことを知り、他の女性従業員二名に同席を依頼した上、乙山に対し、問いつめるような調子で、被害を上司に訴えたことを確認した上、嫌だったらはっきり言ってくれれば良かったのにという趣旨のことを伝えたところ、乙山は拒否の態度を示した旨回答した。

さらに、原告は、同月二四月、石山部長に面会したところ、石山部長は、前日、原告が乙山に対し事実確認等をしたことに強く抗議するとともに、原告の行為は強制わいせつどころか強姦と同じだなどと述べて原告を激しい表現で非難した。原告と石山部長のやり取りは約三時間であったが、その間、石山部長の自分は法律を犯したことなどない旨の発言に対し、「石山部長は車で通勤しているが制限速度を一度も破ったことはないのか、もし破ったことがあるならそれも立派な法律違反である、法律を一度も犯したことがないというのは間違いではないのか。」と原告が反論する場面もあった。

5  平成八年五月一〇日、被告代表者及び中島部長は、石山部長からの事情説明をもとに原告から事情聴取を行った。その具体的内容は、原告が女子社員をエレベーターに引きずり込んで胸を触ったりスカートの中に手を入れて猥褻な行為に及んだこと、事務室で女子社員と二人きりになったときに原告が電気を消して無理矢理抱きついたこと等であった。原告は、それに対し、エレベーターに引きずり込んだ事実はない、事務室内の電気を消したのは女子社員であるなどとして事実を否認するとともに、事実関係を調べて欲しい旨申入れた。被告代表者及び中島部長にとって、原告の反論は、石山部長からの事情説明に照らし、納得できないものであり、その場で、被告代表者から原告に対し、原告の行為は解雇に相当するとの話も出た。

6  その後、被告代表者及び中島は、平成八年五月二二日、被告訴訟代理人である弁護士らに相談し、住友金属人事部担当者と再度検討した上、原告を解雇する旨決定し、同月二四日、本件解雇に至った。

二  本件解雇事由について

1  本件解雇事由について、被告は、〈1〉原告は、平成七年末ころから乙山とタツミ商店内で話をするようになったところ、残業時には乙山の肩を揉みながら長話をするようになり、次第に手を乙山の体の前に持ってきたり、ブラジャーに手をかけるような行為をするなどしたこと、〈2〉平成八年三月中旬ころ、乙山が残業を終えて帰宅するためエレベーターに乗ろうとした際、原告は、追いかけてきて同じエレベーターに乗り、乙山が一階に着いて降りようとしたところで、外観から影になる場所に引きずり込んで抱きつきながら胸を触ったこと、〈3〉平成八年四月中旬ころ、残業を終えて事務室を出ようとした乙山に原告は抱きついたこと等を主張し、中島部長が石山部長から事情説明を受けて作成した文書(〈証拠略〉)にはほぼ同趣旨の記載がある。

それに対し、原告は、これらの事実について一部否認し、その余については事実を誇張ないし歪曲している旨主張し、その本人尋問において概ね次のように供述する。

〈1〉について、乙山の肩を揉んだことはあり、結果として手がブラジャーにかかったこともあるが、他の同僚に対しても男女を問わず、しばしば肩を揉んでおり、乙山からも嫌がられたことはないし、乙山の体の前に手を持っていったことはない。〈2〉について、乙山が帰宅すると言うので、エレベーターから降りようとした乙山に対し、食事に付き合って欲しいという意味合いで、「まだ、いいじゃないか。」と言いながら乙山の腕を引っ張っただけであり抱きついたりしたことはない。〈3〉について、残業をしていて最後に事務室に残った原告と乙山が帰宅しようとして事務室を出る際、電気のスイッチを切って出口に向かってきた乙山とぶつかって、結果として叫んだ乙山に原告は抱きついたようになり、そのまま出口まで引きずられるような姿勢になったことはある。

2  そこで、検討するに、まず、前記一のとおり、乙山が〈1〉ないし〈3〉の原告の行為について上司に訴えていること、平成八年四月二三日、原告が乙山に事情を尋ねた際、乙山は、原告に対し、拒否の態度を示した旨回答していること、実際に乙山から事情聴取をした石山部長が、平成八年四月二四日、原告に対し、その前日に原告が乙山に会ったことを強く非難し、原告の行為を強制わいせつどころか強姦と同じだなどと激しい表現で非難していることなどからすると、乙山が原告の一連の行為を容認していなかったのはもとより、苦痛を感じていたことは明らかである。しかも、乙山にしてみれば、原告の行為について虚偽の事実を述べる理由は何ら見あたらないにもかかわらず、上司にまで実情を訴えているということに照らせば、乙山の感じていた苦痛が耐え難いほどであったことも容易に推認することができるのであって、乙山は嫌がっていなかったとする原告の供述は信用することができない。

したがって、〈1〉については、少なくとも、乙山が不快感を示していたにもかかわらず、原告は乙山の肩を揉んでブラジャーに手をかけるような行為をしていたものということができる。

また、〈2〉について、原告は乙山に抱きついたことや乙山がそれをふりほどいて逃げたことを否認し、腕を引っ張っただけである旨供述し、陳述書(〈証拠略〉)には、エレベーターを降りた後の乙山とのやり取りが記載されている。しかし、中島が石山部長から事情説明を受けて作成した文書(〈証拠略〉)の記載内容は詳細かつ具体的で、その作成経過も中島部長が石山部長に確認し、石山部長も再度乙山に内容の確認を求めた上のものであり(〈証拠・人証略〉)、特段その信用性に疑いを抱く理由はない。また、右陳述書(〈証拠略〉)の記載も、乙山が原告の腕を振り払って逃げたかどうかはともかく、原告が乙山に抱きついたことと矛盾するものではなく、右陳述書の記載をもって、直ちに原告が乙山に抱きついたことを否定することはできない。しかし、仮に原告の主張のとおり、付き合って欲しいという意味合いで乙山の腕を引っ張ったにすぎないとしても、右陳述書の記載内容から、原告の誘いが極めて執拗であったこと、乙山がそれを何とか断ろうとしていたことは明らかである。加えて、既にエレベーターの中で、乙山が「帰ってだんなにご飯作ってあげなくちゃ。」などと話し(原告本人尋問の結果)、帰宅を急いでいたことが窺われることや夜遅く周囲に誰もいないような状況(原告本人尋問の結果)であったことなども考慮すれば、原告が乙山の腕をつかんで執拗に誘いかけた行為が乙山に相当程度の恐怖や苦痛を与えたことは容易に推認することができる。

さらに〈3〉については、原告も乙山に抱きつくような姿勢になったこと、第三者から見れば乙山がもがいて逃げるような動作をしているように見えたかもしれないことは認めるものの、それは偶発的なことであったとするのであるが、タツミ商店の事務室窓にはブラインドがなく、夜事務室の電気を消しても外が明るいので暗闇にはならないこと(〈人証略〉)からすれば、乙山が原告と偶然ぶつかったということ自体疑わしい。その点はともかく、仮に原告の主張のとおり、暗がりの中でドアの方向に駆けてきた乙山とぶつかったとしても、その際、乙山の首にぶら下がり引きずられるような異常な姿勢に偶発的になった、しかも乙山が叫び声をあげたというのに、原告は後に乙山に謝罪したり、誤解を解くようなこともしていないなどという抱きついた態様及びその後の行動に関する原告本人の供述は不自然としか言いようがない(〈証拠略〉には、全く訳の分からないうちに乙山さんともつれ合うことになった旨の記載もあるが、ただぶつかったというだけで一体どのようにすれば偶発的にもつれ合うことになるのかおよそ理解できない。)ことなどからすれば、原告の右供述部分は直ちに信用することができない。しかも、前記一のとおり、この出来事の直後、乙山が上司に対し原告の行為について訴えていることからすると、乙山にとって、原告の右行為はおよそ偶発的と感じられるようなものではなかったというべきであり、乙山が相当程度の苦痛と恐怖を感じていたことは否定できない。これらの事情や(証拠略)の記載から考えれば、原告は、乙山が事務室の電気を消して暗くなったことに乗じて乙山に抱きついたものというほかない(なお、乙山が事務室の電気を消したことは、原告本人尋問の結果から認められる。)。

3  右のとおり、原告の乙山に対する一連の行為は、乙山が不快感を示していたにもかかわらずなされたもので、その態様も執拗かつ悪質であり、乙山に相当程度の苦痛と恐怖を与えたものである。その結果、ついに乙山は上司に訴えるところまで追いつめられたのであり、被告の顧客であるタツミ商店が、巽社長自ら被告に赴いて苦情を言わなければならない程度にまで至っていたのであるから、原告の行為がタツミ商店においてその職場内の風紀秩序を著しく乱し、ひいては被告の名誉・信用を著しく傷つけたことは否定できないというべきである。なお、原告の行為は、被告からの派遣先の職場内におけるものであるが、原告は、被告の従業員であり、タツミ商店は被告から指定された就労場所であるから、派遣先においても被告の指揮命令に服さなければならないことはもとより、原告には懲戒処分も含めて被告の就業規則が適用されることは当然である。

したがって、原告の一連の行為は、就業規則五九条一〇号、六〇条四号、一七号、一八号に該当するというべきである。

三  本件懲戒解雇手続等について

原告は、以前から原告を解雇しようとしていた被告がタツミ商店からの苦情を受け、タツミ商店が派遣拒否を通告していないにもかかわらず、事実調査をせず、原告の言い分も十分聞かず、反省の機会も与えずに一方的に解雇した旨主張するので、これらの点について検討する。

まず、巽社長からの苦情を受けた翌日である平成八年四月二四日時点で、既に被告が原告の解雇を検討していたことは前記のとおりであるが、それ以前に原告を解雇しようとしていたことを認めるに足りる証拠はない。加えて、被告は、四月二四日時点においても原告の解雇を直ちに決定したわけではなく、その後石山部長を介して事実調査をし、同年五月一〇日に、原告から事情聴取もし、さらにその後住友金属の人事部担当者や顧問弁護士に相談をしており、本件懲戒解雇に至るまでに被告が検討を重ねたことが窺える。

また、五月一〇日の中島部長による事情聴取の際、原告は中島部長が原告の言い分を十分聞かなかった旨主張するが、前記のとおり、当時中島部長は、具体的な事実を指摘し、それに対し、原告は、乙山の胸を触ったことを否定し、事務室の電気を消したのは原告ではないことなど弁明していることからすれば、原告にとって十分であったかどうかはともかく、原告に対し、具体的な事実を指摘して弁明の機会を与えたということができる。

ところで、原告は、その本人尋問において、平成八年五月一〇日まで誰からも具体的な事実は聞かされておらず、全く思い当たることがなかったかのような供述をしているが、前記のとおり、平成八年四月二三日時点で、中島部長からセクハラ行為ということは指摘されていた上、同日乙山に事実確認をし、原告の行為に対し乙山が拒否の態度を示した旨回答したことや、翌二四日、石山部長と約三時間にもわたりやり取りがあったことからすると、原告の右供述部分はにわかに信用することができないのであって、むしろ右の各事実に照らせば、平成八年五月一〇日までに、原告としても細部はともかく、本件懲戒解雇事由のおおよその内容は把握していたものと推認することができる。そうだとすれば、右同日、中島部長による事情聴取の際、原告としては十分な弁明が可能であったはずであるし、反省の態度を示す機会もあったはずである。

なお、巽社長が被告に対し、原告の派遣拒否を通告したかどうかであるが、原告を解雇するかどうかは、被告が決定すべきことであって、タツミ商店がどのような考えであったかは問題ではなく、判断の必要はない。確かに、タツミ商店が派遣拒否を被告に対し通告したのであれば、それが本件懲戒解雇の動機の一つとなったであろうことは否定できない。しかし、前記一のとおり、巽社長自ら被告に赴いて原告の行為についていわゆるセクハラ行為であるとして苦情を述べたこと、平成八年四月二四日に原告が石山部長と口論とも言えるような激しいやり取りをして反省の態度も窺えなかったことなどからすれば、タツミ商店が原告の派遣拒否の通告をしなかったとしても、主として技術者を顧客に派遣するという業務形態を採っている被告が会社の信用問題にかかわると考えて、その事実を重く受け止めたのもやむを得ないことというべきであり、タツミ商店が派遣拒否の通告をしていなかったからといって、本件懲戒解雇が不当だということはできない。

したがって、本件懲戒解雇が恣意的なものであるということはできないし、その手続が違法であるということもできない。

四  右に述べてきたとおり、本件懲戒解雇には被告の就業規則に基づく合理的な理由があり、その手続も相当であるから、有効である。

五  以上の次第で、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松井千鶴子)

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